建築構法の授業の質問と回答

「構法計画B」という各部構法の授業にて、授業サイトの質問ページに学生から多くの興味深い質問が寄せられたので、それに対する私からの回答とあわせて以下に記します。


パラペットについて

Q:  保護層が断熱材や防水層の上に敷かれていることは感覚的にも理解できましたが、防水層の上に断熱材が敷かれていることに疑問を持ちました。個人的には、防水層の下に断熱材が敷かれることで、浸水などの影響を受けずに、断熱効果を保つことができるのではないかと思いました。授業内で説明がありました、保護層→断熱材→防水層の順番には何か意味があるのでしょうか。また、用途によって順番に変化が起こるのでしょうか。

A:  教科書的には保護層→断熱材→防水層の順番がほとんどですが、防水層が断熱材より上に来る方法も一般に行われています。ご指摘のとおり、防水層が上のほうが断熱材への浸水を防ぐことができるというメリットがありますので、断熱が昔より重視されるようになった今日ではこちらのほうがこれから普及していくかもしれません。一方で、防水層の劣化が早くなるという点は一長一短の特徴です。どのようにこれらが選択されるのかについては、使用する断熱材の種類が、防水工事の熱に強いかどうか、保護層の圧縮力に強いかなどが要因としてあるようです。(断熱材の強度が低い場合には保護層を載せることが難しいため、防水層を上にして非歩行屋根にするなど)。参考リンク: http://aspdiv.jwma.or.jp/kenchiku/index.html


屋上緑化

Q:  建物の屋上緑化をする場合は、一般的にパラペットの部分はどのくらい必要になりますか?また、土が常に水を含んだ状態で建物のうえにあるとなると、一般的にされる防水対策とは違う、特別な防水対策はされますか?

A:  植栽のための土壌の高さは、植物の大きさによるので、高木になると土壌の高さも1mを超えます。パラペットから内側に離して土壌押さえの壁を立ち上げて、メンテナンスしやすくすることが行われています。パラペットまで土壌を詰めることも行われますが、添付資料の例では土壌上面からパラペットの笠木下端まで150mm程度あけているようです。また、防水に関しては、防水をやり替えるのは大変なので、できるだけ信頼性、耐久性の高い防水構法を選択することが基本で、また土壌の水が適切に排水されるように透水シートや水抜き穴が設けられています。参考リンク: https://www.city.osaka.lg.jp/toshiseibi/cmsfiles/contents/0000092/92724/okujyoryokuka(1).pdf


神社の瓦について

Q:  いくつかの神社の屋根は、緑色に変色した銅板が使われていることが多い印象にありますが、屋根の端の部分の角が取られ非常に綺麗な曲面が多い印象もあります。そこで二つ質問があります。一つ目は、古くから残る神社は、どのような技術で瓦の下に曲面を作ったのでしょうか?二つ目は、銅板は一枚ずつ曲面をつけてから屋根に接着しているのでしょうか?

A:  銅板葺(金属板葺)屋根の端の部分は確かに曲面になっていて優美ですね。特に、けらばの部分を垂れるような曲面にすることで端部からの水の浸入をカバーするという機能もあると思います。どのような技術で曲面をつくったのか、これについては、下地となる野地板部分で木材を曲面になるように重ねて形をつくっているように思えます。二つ目の質問は、銅板自体は薄いので簡単に曲がりますから、下地形状に合わせて留めつけることは容易だと思います。つける前に銅板を少し曲げてクセをつけるくらいはしているかもしれませんね。なお、曲面をつくるには、瓦棒葺きより平葺き(一文字葺き)のほうがつくりやすいので多用されています。


タイル”張り”、石”張り”について

Q:  ”張り”という表記について質問があります。タイルや石を外装として張る場合、モルタルなどの接着剤を用いて接着している場合でも”貼る”ではなく”張る”と表記しているのにはなにか理由があるのでしょうか。辞書的な意味では接着剤を用いて接着することを”貼る”と言うと認識していたため少し違和感があり、質問させていただきました。

A:  たしかにそうですね。タイル張り、石張り、と、どの文献にも書かれています。一つには、貼る、が常用漢字ではないから、という説がありますが定かではありません。建築の辞典的な書籍の中で、紙張りの戸などについて「貼付け戸」という言葉がありましたが。なお、タイル張りは英語ではtiling, tile cladding, tile facingなとど言うそうで、あまり「貼る」という語感が薄いように感じます。個人的には、ある大きさを持つ面をタイルや石で覆うような意味で、「張る」なのだと考えていましたが、それが正確な理由なのかどうかは分かりません。結構深い問いだと思います。


剥落防止について

Q:  タイル先付工法と取付金物による乾式工法について質問があります。個人的には、乾式工法のほうがタイル先付工法よりも施工が簡単で、作業期間も短くできそうな気がするのですが、タイル先付工法を用いるメリットは、他にどんなことがありますか?あと、タイルを張り替えるとしたらどれくらいの期間でメンテナンスするのが一般的なのでしょうか?

A:  仰る通り、タイルの剥落防止工法として、施工性などの観点から乾式工法のほうがメリットが大きいと思いますし、実際に普及していくと思います。一つには、乾式工法のほうが時代的に後から開発されてきたことがあります。先付工法は施工に難しさがあるので、現在は施工を担えるメーカーや施工会社が少ないと思います。唯一あるとしたら、先付工法はタイルがコンクリート躯体に食い込んでいるので、タイルが欠けても剥落することは少ないと思いますが、乾式工法ではタイルが部分的に欠けたときは、その部分が落下する可能性がありそうです。タイル張りの耐久性についてですが、診断によって浮きや剥離のチェックや補修は10年単位くらいで行われ、全面張替えは30~40年くらいでしょうか。タイル張りの耐用年数の目安を文献で見ると、通常の湿式工法が35年、金物の乾式が60年、先付工法も60年となっていました。あくまで目安ですが。また先付工法を現場打ちで行うのは施工管理の難しさがありますが、工場でつくるプレキャストコンクリートで外壁をつくるときなどは、型枠にタイルをセットしてコンクリートを打設することは難しくありませんので、よく行われています。


コンクリートの表情

Q:  普段よくみる打ち放し仕上げの建物の表情はすべすべだと思います。一方国立西洋美術館のコンクリート柱は木の型枠の跡がうまく残っているように思います。同じように木の型枠を使っているはずなのにこんなにも違いがでることが不思議でなりません。西洋美術館の型枠の作り方、もしくは使った材料が特殊だったために柱がコンクリート大木のようになったのでしょうか。また、このように型枠によって変わった表情になっている建築の事例が他にも知りたいです。

A:  現在一般的な打ち放し仕上げがすべすべである理由は、型枠のせき板に合板を使用していることがあります。西洋美術館の型枠せき板は、製材(伐採した木材)をカットした板材をつなぎ合わせてつくられているため、細かく板の継ぎ目が表れています。なお、通常は板材としては杉板が用いられていましたが西洋美術館では、美しく見せるために姫小松という材を使って、職人が精度よく仕上げています。大量生産によって合板を型枠に使用するようになったのは1960年代末以降なので、それ以前の打ち放し仕上げの建物は、杉板型枠によるブルータル(荒々しい)な表情の建物になっています。例えば八王子大学セミナーハウス、香川県庁舎などが例としてあります。合板型枠では、一枚のサイズが大きく平滑な表情となりますが、さらにその型枠表面をコーティングしてコンクリートが剥がれやすいようにしていることで、つるつるの均質な表情になります。しかし例えば桐朋学園大学音楽学部 調布キャンパス1号館という建物では、コーティングしない素地の合板を用いることで、均質ではないまだらな型枠の表情があえて表れるデザインとなっています。


ALCパネルについて

Q:  ALCパネルが鉄骨造に多く用いられる利点はどのようなことがありますでしょうか?

A:  ALCパネルは気泡を含んでおり、軽量のわりに強度があるので、軸組構造で壁を元々有しない鉄骨造にとっては、外壁下地にもそのまま仕上げにもなるパネルとして使いやすいのです。また耐火性が高いので鉄骨造にとってはありがたい性能です。簡易的なカーテンウォールとみることもでき、乾式工法で現場で留め付けるだけで施工性もよいです。デメリットをあげるとすると、製造の関係でパネル幅が限定されることもあり、外壁に使うといかにもALCといった表情になります。そのため、建物の側面などに多用され、正面にはALC下地にタイル張りとしたり、他の構法(金属パネルなど)が用いられることも多いです。


階段の種類について

Q:  力桁階段は桁材が1本だと授業で学びましたが、以前本で見た階段では桁材が2本でも力桁階段だと記されていました。力桁階段の特徴は1本であるということではないのでしょうか。また、ささら桁階段は桁材が1本でもささら状になっていると、ささら桁階段と呼ぶのでしょうか。

A:  建築用語辞典によると、力桁とは、階段のたわみを押えるための力骨となる桁、とあります。ここで、力骨とは、細い材を組んで外力に抵抗するとき、適当な間隔で配された特に太く丈夫な材、とあります。従って、桁材の本数は力桁かどうかとは関係なく、むしろその太さが重要となります。ここで、桁材が一本の中桁階段を考えてみると、中央に太い桁材で支持するので、力桁階段と呼ぶのですね。段板の後ろから支えるので、必然的にささら桁の形状になりますので、ささら桁の中で特に太いもの、と考えてもよいかと思います。


SI住宅について

Q:  NEXT21などのSI住宅についてですが、授業内のお話にもあったように、あまり世の中に普及しない理由としては具体的にどのようなものがありますか?また、構造躯体を変えずに内装のみを変えるとなると、すべて取り壊して新しく建て替えた時よりもどのくらいコスパはよくなりますか?

A:  普及しない要因としては様々なものがあるかと思います。まず建設にかかるイニシャルコストは通常のマンションより高くなります。設備縦管を住戸外にして設備更新をしやすくするなど、部分的な技術は今日のマンションでも一般的になってきています。しかし個人のライフスタイルなどに合わせて可変的であるインフィルは、居住者が決まってから住戸内をつくる必要があったり、スケルトンとモジュールなどが相性のいいインフィルシステムである必要があったり、なかなか経済的なメリットにつながりにくいところがあります。そのような住宅を多くの市民が求めるようになれば普及していくかもしれません。躯体を触らずに内装のみを変えるのであれば、建て替えるコストとは圧倒的に安くなりますが、躯体を耐震補強したり現在の基準に適合させようとすると、例えば下記参考サイトによれば工事費は70パーセント程度となっています。参考リンク:https://lets.mitsuifudosan.co.jp/refining/index.html

KUMAGAI LAB

東京理科大学工学部建築学科 熊谷研究室