近代建築保存改修のケーススタディ

 ゴルフクラブハウス「嵐山カントリークラブ」の保存改修工事を対象に、近代建築の再生手法と技術の調査を行っています。建築家・天野太郎によって1961年に建設され、幾何学的な構成と空間の流動性を特徴とする建物ですが、建設後の度重なる増築や改修によって建設時の姿は失われてしまい、段階的に元の姿を回復するプロジェクトが行われています。ここでの課題は、建設後の増改築は、元々の設計の不具合や現代から見た機能性の不足に起因することです。例えば、ラウンド後にクラブハウスにスムーズに入れるように、建物中央に大階段が付け加えられ全体の外観が大きく変更されていました。また食堂の床は、当初はフローリングブロックでしたが、スパイクシューズによる劣化損傷を避けるためにカーペット敷きに変更されていました。

下写真:改修後の嵐山カントリークラブ2階大食堂(2016年撮影)


 モダニズム建築に共通する問題もあります。現在から見ると空調などの設備性能が十分ではありませんが、モダニズム建築は構造躯体をそのままデザインとして表現する特徴があり、改修時に設備系をおさめる天井ふところなどのスペースが不足しています。そこで、ここでは複合的な解決法がとられました。近年のゴルフシューズは床仕上げを傷めない素材になっていることから、まず床のフローリングブロックを復原することになりました。その際、床の鉄筋コンクリート躯体の上に床下地としてモルタルが敷かれていましたが、これを撤去して床下空間を持つ二重床に変更されました。床下空間を配線スペースとして使用して設備スペースの課題を解決すると共に、モルタルの撤去は建物重量が軽減され耐震上有利になりました。また耐震補強は、意匠への影響を最小限にする必要から、既存の欄間内の空間を活かしたフレーム補強が行われました。

下図:嵐山カントリークラブ大食堂 床構法(改修後)(陶山直人作成)


 このような手法は他のプロジェクトにおいても適用可能な方法であり、技術や手法を整理共有していく有用性があると考えられます。また保存再生が良好に行われるもう一つの要因として、経営者、施工会社などが建設当時から継続して建物に関わっているなども重要です。

(本記事は、東京理科大学「科学フォーラム」2016年6月号掲載の拙稿「既存建築の改修」をもとにしています)