モニュメントの再生から既存ストックの活用としての改修に話題を転じると、近年は空き家などの遊休資産を活用してまちづくりを行うエリアリノベーションが注目されています。この分野では不動産経営の手法を用いて少しずつ実際にまちを変えていく方法が特徴的です。北九州から始まったリノベーションスクールという実践的な活動をはじめ、全国で地域再生のムーブメントを創り出しつつあります。例えば長屋の多く残る大阪では、歴史的な長屋の1階に、若者がクラフト系のショップを構え、エリア全体に古くて新しい界隈性を形成しているところもあります。
下写真:大阪中崎町の長屋
戦後に大量供給された団地の再生なども各地で取り組まれています。先進的な団地再生の一つである「ホシノタニ団地」では、これまでは団地内で完結するコミュニティであったのに対して、積極的に周囲の街にひらいています。例えば、団地を特徴づける住棟の間の外部空間を貸し菜園にしており、団地外の人たちの利用も多いことが特徴であるようです。
下写真:ホシノタニ団地
理科大が本拠を構える神楽坂は、老舗の料亭などに加え、近年は家屋の一部を改修した飲食店も多く、木造建築が密集するエリアに住宅と商業が混在した賑わいを生み出しています。一方で、これらの木造密集地域は防災上の課題があり、耐震改修や飲食店への用途変更には法的なハードルも高いため、路地の拡幅を伴う建替えも進んでいます。神楽坂の持つ界隈性の魅力を活かしながら防災性も向上させるため、木造建築とそのリノベーションの実態についての調査も行っています。
理科大葛飾キャンパスのある金町の大学周辺には、地域の高齢化も背景として空き店舗が散見されます。自転車利用者が多い金町では、これらの空き店舗を私設の駐輪場として利用している建物が多いものの、駐輪場利用だけでは街としての活気は衰退していくため、新たにコンテンツを街に埋め込んでいくことが必要です。
店舗が並ぶ通りから一本奥に入った一角には、マンションの1階部分を改装したカフェがあります。周辺の金町の一般的な飲食店とは雰囲気が異なり、エリア外からも含めて昼どきには子育て世代の女性客が多く来ています。同じエリアでも交通の多い通りや商店街では地価が高いが、奥まったところにある住宅地の一角などでは地価が大きく下がることが多く、家賃断層と呼ばれます。家賃が安ければ若い人たちが借りてお店などを開きやすく、それによりエリアが活性化していくということが各地で起こっています。金町でもこのような変化の芽を積極的に活かしていくことで地域連携していきたいと考えています。
(本記事は、東京理科大学「科学フォーラム」2016年6月号掲載の拙稿「既存建築の改修」をもとにしています)
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