高度経済成長期には、建築部品は生産合理性が重視され、例えば木製建具や稲わらの畳、縁甲板の床などは工業生産品に置き換わり、いつしか住空間の豊かさに対する無関心が増大してきたと思います。しかし近年のリノベーションにおいては、高度成長期に一度衰退した部品が新しい形で用いられるようになってきています。
例えば間伐材を活用した無垢板をパネル化した床部品は、既存の床の上に敷くだけの床材であり、その手軽さと引っ越しの際に持っていくことができるため人気があります。既存の複合フローリングの上から新たに床を張るということは、性能に加えて質感が重視されてきていることを象徴的に表しています。
下写真:パネル化された床フローリング
他にも、建物の1階部分の店舗やコミュニティスペースの改修においては木製サッシが積極的に用いられるなど、懐かしい質感を持ち今日的な新鮮さもあわせ持った部品がみられるようになってきています。このような状況の背景には、新築と異なり内装に多く予算投入できること、情報技術の普及により、個別性の高い部品であっても日本全国からユーザーが注文できるようになったことがあると思います。
近年は、自ら改装工事などを行うDIYが男女を問わず実践されており、素材の質感、創り上げる体験やプロセスが重視されるようになってきています。縮小社会の中で大量生産に合理化された部品は変化のときを迎えており、個別性が高く豊かさを備えた部品が新築の生産をも変えていく可能性があると思います。
(本記事は、東京理科大学「科学フォーラム」2016年6月号掲載の拙稿「既存建築の改修」をもとにしています)
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