カタルーニャ・ヴォールトは、薄いレンガを用いて複雑な三次元曲面を形成する構法で、施工に大がかりな型枠を必要とせず、「重い」「厚い」一般的なヴォールトに比べて「軽い」「薄い」構造を構築可能である。鉄筋コンクリートが普及するまでの間、欧州で広く用いられ、特にカタルーニャでモデルニスモ建築の造形と結びついて応用が進んだ。
近年、カタルーニャ・ヴォールトが再び注目されつつある。ETH Zurichでは三次元自由曲面形態のカタルーニャ・ヴォールトを実験しており、圧縮に効果的に自立する形態を見つけ出すことができるコンピュテーショナルデザインが新しい可能性を生み出している。またコンクリートを技術的、経済的に容易に使用できない地域における適用の可能性があるという点で、ローカルでサスティナブルでもある。
このユニークな特性が興味を引き、実際につくってみてその構法的特徴を検証してみた。通常の組積造と異なるのは一層目の施工が接着構法である点である。石膏や速硬性のセメントを用いて小口を接合して自立アーチを形成し、これが一種の捨て型枠の役割を果たす。ヴォールトの強度を主に負担するには層間のモルタルであり、これによってレンガとモルタルが一体化される。石膏は日本の焼石膏で代用できたが、道具に関しては、石膏を扱いやすいスペインの鋭角形状のレンガ鏝や、固まった石膏を除去するのに適しているラバー製のトロ船は日本の道具による代替が難しかった。最初は石膏の扱いなどコツが必要であるが、技術としてはシンプルな湿式構法であるため誰でもトライしやすい。通常の組積造の仮枠と異なり、ほぼ形態を示すガイドのみによって一体構造をつくることができる点がセルフビルドに向いている。形と素材と構造と施工、それらが連関して製作される点にこの構法の醍醐味が凝縮されていると感じた。
下写真:HPシェル形状のヴォールト完成時
HPシェル形状では高さが増すにつれて形態的に広がっていくため、レンガの角度が少しずつ外向きになる。接着するには隣のレンガと平行であることが必要だが、角度をもった接合を石膏の厚みで調整することは容易ではなかった。またHPシェルの曲率が急すぎるとレンガの接着がうまくいかないため、形態上も制約があることがわかった。接合の問題は全体形状をプログラミングすることによって、役物なしで解決できるような最適形態をフォームファインディングできるのかもしれない。
曲げ力を負担できるRCシェルと異なり、カタルーニャ・ヴォールトの形は圧縮力という制限の中で組積造を極限まで突き詰めた形態になっている。興味深いのは、何らかの補強をほどこして引っ張りや曲げにも耐えられるように改良していくと、必然的にRC造に近づいていくことである。組積造を否定することによって近代構造であるRC造が生まれるという近代建築史の理解に対して、組積造とRC造は技術的に連続性があるということが垣間見える。
(本記事は、日本建築学会『建築雑誌』2019年3月号「技術ノート」に掲載された拙稿をもとにしています。)
0コメント